マルチとバブルとトウモロコシと女

catsnrats2008-10-26


昔、知り合いの女のアパートに、アムウェイの洗剤が何種類か置いてあるのを見つけた。アムウェイが「商品つきのネズミ講」だという知識はあったので、そう彼女に言ってみたところ、その洗剤はいいものだから先輩に売ってもらったのだという。とりあえず彼女がアムラーではなかったので、ほっとした記憶がある。

このマルチ商法というやつが、今の金融危機そのものと似ているということが、最近よく指摘される。確かにその通りだ。大きく儲ける悪者がいて、最後は末端が損をする。大規模なバブルになると、税金が使われるので、被害者は全国民ということになる。今やこれが、全世界の人間になっている。一人一人は大して損していないけど、勝ち逃げした人間にとっては大きな稼ぎ時である。ネズミ講との大きな違いは、バブルの場合、誰も逮捕されないことだ。だけど本当に、違うのだろうか?

北朝鮮の飢饉に関して、こういう話があった。「食べるためにトウモロコシを栽培したけど、ノウハウがなくて二年続けて植えたりしたものだから地力が落ちて、よけいひどいことになった」。

今の金融危機も、世界経済の地力が落ちるような事態になっているが、作物を植えた人間は、かなり儲かったことだろう。その作物はサブプライムローンとか、クレジット・デフォルト・スワップCDS)という危険な品種である。私には今回の金融危機は、すべてわかっていて行われた遺伝子組み換え型ネズミ講に見える。

アメリカ政府は、景気をよくしようとした。結果的には望み通りになって、今回の場合は自動車とか土地が売れまくり、バブルとなった。バブルの時はとにかくみんなが、買うことに一生懸命になる(だからまた、よく売れる)。勧誘しなくても買うのだから、マルチ商法よりずっと簡単であるし、実際に儲ける人が多い。そこで借金してまで買うわけだが、その借金の敷居を下げることで、さらに状況を悪化させたのがサブプライムローンとかCDSだろう。サブプライムは、金融危機の引き金とまで言われた。普通のバブルより、ずっと人災度が高いと思われる。

調べてみたところCDSというのは、誰かが借金を返せるかどうかに賭けるバクチらしい。これは、どうしても世の中の借金が増える方向に働くだろう。バクチをするためには借金する人が必要だからだ。貸した金が帰ってこなくても損しない仕組み、それは必然的に、全体として金が帰ってこない可能性を増やす。サブプライムローンについては言わずもがなだ。

私にはわからないのだが、バブル経済って、世の中にとって必要なものなのだろうか。ある程度を越えたら、物価が上昇する局面でも最後に破綻する局面でも、迷惑する人は多いわけで、防ぐ努力をすべきではなかろうか。それが故意だったら、尚のことだ。今の状態では、バブルを防ごうというインセンティブはお金持ちの中には存在しない。マルクスの「資本論」には、「お金を貸す」ということに内在する根源的な問題が考察されているはずだ。私は読んだことないけれども。

結局アムラーではなかった彼女は、本人は気付いていないが、今回の金融危機でも単なる被害者の一人である(納税しているという意味で)。その彼女と結婚した私こそ、最末端の負け組かもしれない。