サンクト・ペテルブルグのダーツ板

前のエントリの訃報で、この数学者の名が野口悠紀雄の「金融工学、こんなにおもしろい」で紹介されていたのを思い出し、途中で放置していたので開いてみた。

すると「サンクトペテルブルグのパラドクス」が出てきて、このパラドクスをもって「人は期待値ではなく期待効用に従う」としたダニエル・ベルヌーイの説をそのまま紹介していた。だけどこの説明は、パラドクスを解決はしない。こんなことだけ書かれたら、真面目な読者はこっちが気になって金融工学に踏み込めないような…。

この話は以前のエントリ、「二つの封筒のパラドクス」にも関係していた。D.チャルマーズ(チャーマーズ)は、無限大が悪さしている例としてペテルブルグを持ち出したのだが、たとえ上限を設けても、この賭けをタチのよいものにはできない。

St Petersburg dartboard


こういうダーツボードを考えると、わかりやすい気がする。「アキレスと亀」のパラドクスよろしく、どんどん面積が半分になっていく同心円を描いてあるが、別に描いていなくても、中心からの距離で賞金が決まる。コイントスと同じ条件にするには、完全にランダムにダーツが刺さると考える必要があるが、たとえ狙って当てたとしても、ちょうど中心の「無限大」に当たる確率はゼロだ。そこだけは面積がないから。上限を設けたとしても、中心の狭いエリアが狭いことには変わりがない。結局、このパラドクスの不思議さを説明するには、大数の法則しかないように思う。

上にリンクしたWikipedia日本語版で、面白いことを見つけた。一ヶ月前にはなかった、「逆説の解答」というセクションができていて、

問題より、投げた回数をnとすると2^(n − 1)円貰えるから、1回のゲームについての、nの期待値はどのような値になるかを求め、それから2^(n − 1)円を計算すればよい。 ここで、裏表関係なく無限回コインを投げたと仮定して、その中に裏がx-1回続き、表がx回目に出るコイントス列が現れる割合は全体の1 / 2^xで、それぞれのコイントス列の試行は互いに独立事象なので、単純に確率の和を取ればよい。 なので、1回投げる事から無限回投げる事までの回数に、その回数が現れる確率を掛けたものの総和を、1回のゲームにおいて投げる回数の期待値μとする。…故に、コインを投げる回数の期待値は2回、期待できる金額は2^(μ − 1) = 2で、2円となる。

編集履歴を見ると、この記述は以前にも削除されたことがあったらしい(「ノート」参照)。期待値の求め方がおかしい気がするが、それ以前に、この説明では全然パラドクスを説明したことになってないのが私には気になる(心理学的な意味で)。

一方で、この記述をした人の気持ちもわかる。上のダーツボードでの賞金が、1,2,4,8, . . . と増えていくかわりに、1,2,3,4, . . .と増えたら、平均は2になるということだ。何か意味がありそうな気はするけど、それはサイコロを振った回数が得点になるという条件の時だけだ。