二つの封筒のパラドクス

始めて2週間になるはてなダイアリーを逍遙していたら、二つの封筒のパラドクス、あるいは交換のパラドクスについてのエントリがいくつか存在した。以前にググったときにもこれらのページを見た記憶がある。正直、いまだによくわからないのだが、今回もまた疑問は解消されなかった。

英語版Wikipediaの解説は、よくまとまっているし、本エントリも要点はここからのパクリである。

問題:お金の入った二つの封筒のうち、一つをもらえるが、片方にはもう一方の倍の金額が入っているという。外観は同じなので、適当に一方を選ぶが、そこで考え直すことを許される。どう考えても、考え直したって同じはずだが、計算するとおかしなことになる。
今、持っている封筒の中身を1万円と仮定すると、もう一方は5000円か、20000円のどちらかである。ここで期待値を計算すると12500円で、一万円より高いので、交換した方がトクということになる。どんな金額でも、どちらを選んでも、常に交換した方がトクって、一体どういうこと?

最初に感じる動物的違和感は、5000円の場合と20000円の場合を加算平均してもいいのか?ということではなかろうか。下図のように、最終的な利益としてありえるのは5000円か20000円かであり、もちろん12500円という結果はない。だけどトクしたらプラス1万円、損したらマイナス5000円というのは確かで、それが半々だったらバクチに出るのはリーズナブルかなぁとも思う。しかし、最初に選んだときにバクチは終わっているはずで、やっぱり不思議だ。

この話にはいくつかポイントがあって、その中に「一つめの封筒を実際に開けてみた場合と、想像しているだけの段階では結果が違う」という議論があるが、そっちにはあまり興味がない。

そこで最初の要点は、どんな金額も同じ確率で入っているような確率分布=上限のない一様分布は定義できない、ということ。これを指摘して、パラドクスを解決したつもりになることも可能かと思われたが、そうではなかった。下のグラフのような確率分布だと、全確率は収束するので、定義できる。一様ではないけど、金額自体は無限大までカバーされている。

ただしこの場合、低い金額の可能性のほうが常に少し高いので、期待値は12500円じゃなく11000円になる。また100円以下の確率が非常に高いから、1万円だった時点でかなり嬉しいだろう。だけど交換したときの期待値は、とにかく最初の1.1倍になる。やはり、トクしたときの増分が大きいからだ。

これを説明するためにチャルマーズは、サンクトペテルブルクのパラドクス持ち出した。交換した方が常にトクする、などという状況は、期待値が無限大という無茶な状況から不可避的に起こっていることをフォーマルに示しており、これで終わりにすることも可能だろう。

だけど、まだ何かおかしい。最初に戻って、しかし今度は100万円という上限があるとする。少ない方の封筒には5000円から50万円まで5000円おきに同じ確率で、多い方にはその倍を同じ確率で入れておくことができる。最初の封筒が100万円だったら、絶対に交換したらダメだ。また、5000円だったら、必ず交換するだろう。しかし1万円が入っていたとすると、5千円と2万円の間で悩むのは、やっぱり同じではなかろうか。

スマリヤン大先生もそう思ったのか、これは最初から確率の話じゃないと指摘した。問題は、下の二つの理屈が、どちらも正しいと思われることにあると。

  1. 選んだ封筒の中身をAとする。交換すると、Aだけトクするか、A/2だけ損する。つまり、トクは常に損より大きい
  2. 二つの封筒の中身を{Y, 2Y}とする。交換すると、Yだけトクするか、Yだけ損する。つまり、トクは常に損と同じだ。

でも彼自身は答えを示さなかったので、Chaseによる解決があるのみらしい。

「Aだけトクするか、A/2だけ損するかだ」という言い分は、一見正しいようだが、二つに分けるとこうなる:

  • 交換することでトクするような、もっとも近い可能世界は、Aだけトクするような世界だ
  • 交換で損するような近い可能世界は、A/2だけ損するような世界だ

前者は、封筒の組み合わせが{A, 2A}だった世界のことで、後者は{A/2, A}だった世界だ。つまり封筒を選ぶ前の段階で、別な世界に分かれている。いま、最初に選んだのが高額の封筒だったとすると、それは後者の世界となるが、この状況で、「交換によってトクするような最も近い可能世界」とは何だろうか?それは封筒の組み合わせが違った世界ではなく、違う方の封筒を選んだ世界であるべきだ。反事実は、より共通点が多い世界を指すべきだからだ。

ここでWikipediaの解説は終わっている。私はまだ、全体として飲み込めずにいる。特に多くの人が食いついた確率の話と、私が好んだスマリヤンの視点との関連性がわからない(数学的にも、心理的にも)。後者は5000円と20000円を平均することを否定しているわけで、違和感は少しは説明された。だけど、もし封筒の金額が、「一方は5000円多い」という設定でも、平均したらダメなのだろうか。答えは合ってしまうのだけど。