温暖化と医師の判断

地球温暖化のせいで北極の氷、13年以降に消失もというニュースが先日あった。海面の上昇の話と一緒にされているために、いかにも氷が溶けて水面が上がるみたいな話になっているのが気に入らない。この記者は、コップの氷が溶けても水面は上がらない、ということを知らないで書いている気配がするし、そうでなくともミスリーディングである。こういう不適切な記事は多く、新聞記者に、理科離れを語る資格はない。

私は温暖化対策に反対ではないが、もともと温暖化に関しては信用できない話が多い。信憑性を増そうとして、逆に怪しくなってしまっている気さえする。実際に過去の気候データを測定している人と話したことがあるが、その人も温暖化は対策すべきだと言っていた。だが、その根拠は実に単純で、ここ百年の二酸化炭素の増え方が尋常ではないということだった。

こんなに急に温室効果ガスが増えたことは、地球始まって以来かもしれない。いつ、何がどうなるかはわからないが、とにかく放置するのは恐ろしい。私はこれが、一番説得力のある説明だと思った。

IPCCの報告のように、「9割なんたらの確率で、二酸化炭素が温暖化の原因になっている」とか言うほうが、怪しげだ。考えの途中を飛ばして、いきなり結論を言う態度が、まず気に入らない(まぁそれを求められてるんだろうけど)。そもそもIPCCという組織自体が、温暖化を考えるために作られたのだから、結論へのバイアスを疑うのが健全だ(集まるのはどうしても、普段から温暖化ネタで食っている研究者だろうし)。だいたい温暖化が二酸化炭素のせいだとしても、今から元に戻せるものかどうか、答えが出るとは思えない。

それならCO2のグラフだけ見せられて、自分で想像する方がずっといい。それ以外の、大昔の気温のデータなんて、信用するのに必要な仮定が山ほどあるだろう。しかもそういうデータからは、氷河期になった理由すら未だに説明されていないのだ。そんなこんなで、平たく言えば「95%正しい」と言われても、お前のその考えが正しい確率は?と思うだけだ。何しろ地球は一個しかないので、確率を検証する方法はない。検証できない確率があってもいいが、他人がやった確率計算のせいで金を失った人が世界中にいる昨今である。

医者が患者を診断するとき、似たような困難が生じる。この治療法は9割の人に有効でした、というのは正しい説明だろうが、それは理解できても、患者が知りたいのは自分に効くかどうかだ。医者の側からすれば、根拠のある、できるだけ多くの患者を救うような治療法が望ましいが、患者の側からすると、たとえ多くの人には効かなくても自分に効く方法がベストである。そして、ベストだったかどうかは、往々にして検証できない。*1

それでも、人間は地球と違って大勢いるから、多くのデータがあり、予想もできる。さらに判断も、最後は本人に任せればよい。温暖化対策は、一人だけやってきた宇宙人を治療するようなものだ。とにかく段違いに難しいということ。マスコミによる説明も、その前提から始まるべきだ。

とりあえず、温暖化について専門的な知識がある人も、「二酸化炭素が増えすぎたとき、何が起こるかわからない」という気持ち悪さを普通に感じていた。IPCCにとって、わかったような報告書を書くよりも、「わからないこと」の気持ち悪さや恐怖感を伝える方が、ずっと正直で、賢いやり方ではなかろうか。

*1:根拠に基づいた医療が本当に役に立つものであるためには、まず病状の分類が正確である必要があるが、そこがすでに保証されていないのが現状だ。ある治療法が有効かどうかという治験データは、病気の分類がいい加減であれば参考にならない。たとえば今、高血圧と言っても、そう診断された人々は実にヘテロジニアスな集団だと思われる(何しろ、とりあえず安静時血圧しか見ないで言ってるのだから)。高血圧に限らず、本当は原因別に対処するべきものが、それが不明なために一緒にされているケースが今後も判明するだろう。