ジャイアント・ステップ

今日はもう、投票日らしい。バラク・オバマ候補が黒人だということが争点になっていること自体、誰にとっても不幸なことだ。黒人・白人(アラブ・インド系を含む)・アジア人にはそれぞれ得意分野があって、全部の領域で同じにはできない。

理学系、工学系、生物系、心理学系、いろんな研究者に尋ねてみれば、国際学会ではめったに黒人の研究者を見かけないと言うはずだ。特に基礎物理や工学系の人によると、ただ一人も見かけないことがあるらしい。学会が北米で行われてもそうなのだから、明らかに黒人は科学研究に興味がない。アメリカでは進学で優遇すらされていると言うのに。

一方、スタンフォードの学生の24%はアジア系、バークリーでは新入生の46%がアジア系といった統計を挙げるまでもなく、アジア人は勉強や研究が好きだし、いわゆる知能テストでも高得点である。アメリカには韓国系の研究者がイヤというほどいるが、小さい国であんなに人材が流出していては、本国の南北朝鮮が傾くのも当然という気がする。

そもそもオバマは、母親が完全な白人だという。人種差別のおかしなところは、混血によって長期的には問題が消滅しうることだ。ビル・クリントンだってインディアンの血を引いているくらいだから、アメリカでは、すでにかなり混血が進んでいる。だから逆に、純粋な黒人および白人として残っていくのは(純血にこだわるなどの)特殊な人だけになり、また少数派になっていくだろう。

天才ロックギタリストであるエディ・ヴァン・ヘイレン メンバー(敬称)はオランダ人とインドネシア人の混血で、子供の頃は有色人種としていじめられた。ジミ・ヘンドリクス メンバーはブラックインディアンで、さらに白人も混ざっているという。はたまたボブ・マーリー メンバーも白黒の混血で、こうなってくると混血と才能は関連しているような気がする。

しかしそれ以前に、黒人の音楽的才能は万人が認めるところだ。ジャズもR&Bもロックも黒人が始めたものだし、すでに多くの作品が古典となっている。半世紀前に、ビートルズチャック・ベリーをカバーしていた。私たちはすでに、さんざん黒人に踊らされているのだ。世に認められるっていうのは、こういうのを言うのではなかろうか。権利は力ずくで、純粋に自分たちの能力で得るものだ。…ただ、音楽がわかる人はそんなに多くないかもしれないが。

今度の大統領選では、個人的な感想として、どっちの候補にもそれほどの魅力はない(なんだか暗いし)。おそらく今や、アメリカで大統領になりたがる人自体あまりいないのだろう。人気分野であれば、ブッシュのように世襲になったりはしない。そんなときに、無理して黒人を選ぶほどのこともあるまいと、第三者としては思ってしまう。そしてBBCニュースの見出し、「歴史的な投票日」っていうのも、ちょっと違うんじゃないかと。

シメのラーメンの科学

独身のときいた赴任先で、行きつけの場末のスナックで朝まで飲んでいたら、いつも最後に味噌汁を出してくれた。その地方では珍しいサービスではなかったらしいが、これが非常にうまかったのをよく憶えている。だから痛飲した後というのは、おおかた低ナトリウム状態になっているのだろうと勝手に思っていた。ラーメンが食いたくなるのも同じ理屈だ。原則としてカラダにとって必須なものをおいしく感じるように、私たちはできている。

最近、飲酒後のラーメンに関してこんな記事が、少しだけ話題になった。「アルコールを摂ったら脱水状態になる」という記述があるのだが、ふつう酒を痛飲したときは水だって大量に摂取している。エタノールがバゾプレッシンというホルモンを抑制するという話は確からしいけど、その実験系が、どこまで現実の酒飲みの生理を模倣できているか、たいへん疑問だ。いくら利尿に働くといっても、飲んだ液体と比べてトイレで出す量は少ないと思う。一部は代謝に使われるとしても、本当に水の収支がマイナスになるのだろうか?

はてな」にも、「酒を飲んだ後にラーメンが食べたくなるのはなぜですか?医学的根拠で回答をお願いします」という質問があった。こういう質問に対する医学的根拠って、何だろうか。たとえばダーウィン進化論や「利己的な遺伝子」は生物学における有力な説明ではあるけど、証拠を出すような話ではない。後付けのモデル/理論というやつだ。実験によって反証できないから、それらを非科学的という人すらいる。

おしえてgooには、アルコールの代謝にエネルギーが必要なので「飲酒後3〜4時間以内に血糖値が50mg/dl以下に下がってしまいます」とか、「飲んだ後はラーメン、という固定観念があるから」といった回答。前者は、シメのラーメンは健康にはよくないから、やめましょうとまで言い切っている。

どうも、ちゃんとした根拠がないのに結論だけは簡単に出している人が多すぎる。ただの伝聞とか、いい加減な外挿に外挿を重ねた結論をやりとりしているこの人たちを見ると、科学がないならニセ科学を食べればいいじゃないというか、むしろ平民はニセ科学が好きなのかしらと思えてくる(まぁ一部、質問箱サイトの宿命とも言えるけど)。このせいでラーメンを我慢して、健康を損ねる人がいたらどうするのか。最後に水分プラス塩分を摂らずに寝てしまうと、私の場合は次の日しんどい。

リアルの酔っぱらいが飲んでいる酒量というのは、実験に使えるような量よりもずっと多い。酩酊レベルの急性アル中になっているわけだから、本気で実験したら倫理委員会を通らないだろう。調べた範囲では、酒の量を決めて、30分とか3時間かけて飲んでもらうような研究が多かった。

なんとか参考になる論文を探そうとして、本当の酔っぱらいのケースを求めた。そうすると私の予想に反し、確かにみな脱水で、ナトリウムも濃くなっているようだ。ただし、これらは病院に担ぎ込まれた重症例ばかりだ。アルコールの血中濃度が高いことが急性アル中の原因あるいは要件であることを思えば、脱水は、その結果かもしれないが原因かもしれない。もともと脱水気味のところに飲酒したから、急に血中濃度が上がって重症になった、はたまた相乗的に作用した可能性がある。

それに引き替え、単に血液が希釈された状態は、病院送りにはなりにくい。欧米では、ビールの多飲で起こる重症の低ナトリウムをBeer potomaniaというらしい。これはナトリウムが本当に低くて、神経症状が出ている(=mania)ほどの状態だから、味噌汁をうまいと思う程度の低ナトリウム状態だったら頻繁に起こっている可能性がある。日本人が飲む酒はビールと水割りが多く、どちらも世界基準では薄目だから、これは参考になると思う。頭がおかしくなるまで立って飲んでいられるというあたり、欧州人はやっぱりアレというか体力があるな。

現時点で私に言えるのは、どうやら酒の飲み方によって、血が薄まったり濃くなったりするらしい、てこと。血が濃くなるような飲み方をする人は、あるいはラーメンの食べたさが私とは違うのかもしれない。

分娩数を知らないということ

catsnrats2008-11-02

ブログを始めてから、他人のブログをよく読むようになったため、自分のブログを書く時間がない。昔、手でチマチマとHTMLを書いて日記を公開していたときは、他に書いている人が少なくて、読むものはあまりなかった。ここ何日か、本と奇妙な煙にお世話になり、そこから紆余曲折を経てhiroyukikojimaの日記にたどり着いたあたり。

その流れで知ったのだが「大学への数学」の別冊だった「解法の探求」が廃刊になるらしい。私が受験生のころには、すでに活字がヘタっていた記憶があるのに、いまだに出ていたか。これを「解探」と呼んでいたのも思い出した。ついでに物理と化学は「標準問題精講」だった。私の時代の装丁を探したけど、古すぎてネット上にはなかった。高三の夏休みに、通して3回やったら、たちどころに霊験あらたかであった。私の子供の世代になると、受験人口はあのころの半分だから、必然的に程度は下がっているだろう。私には温暖化よりも少子化のほうが恐ろしい。もたらす被害が、より明らかだからだ。どう見ても自分より勉強ができない医者。こわい。

こちらの日記で知った読売新聞の誤情報「一日に28分娩」は、派手な間違いではあるが、普通の人はこのレベルと考えるべきだ(今は月に28分娩と、訂正されている)。単なる誤植ではなく誤認だと思われるのは、三浦俊彦著「論理パラドクス」にも、こんな問題があるから。

月に500人の子供が生まれる大病院と、月に300人の子供が生まれる中病院と、月に100人の子供が生まれる小病院がある。(中略)ある病院で、この一ヶ月に生まれた赤ちゃんのうち6割が男の子だったという。どの病院である可能性が高いか。

月に100人で小病院とは、やっぱり多すぎる。この著者は決してテキトーな人ではなく、全般的に設問は用心深く作られているので、それだけにこれはガチで認識が誤っているのだろう。あと、この本は、こんなつまらない問題ばかりではない。これは単なる大数の法則の紹介である。

一般人にとって医学的な知識は、興味はあるけど本気で勉強したいものでもない。基本的な医学知識なしに生活するのは、マニュアルを読まないで機械を使っているようなものだ。その証拠に、ほとんどの人がそうしている。人が最後は死ぬっていうような最も基本的なことからして、できれば知らないで生きていたいものだ。

そこへ持ってきて日本人は、よそと比べて子供が好きじゃない。デパートの中や地下鉄構内でバギー押していたらいやな顔をされるような国は、日本だけだ。あながち「こじつけ」じゃなくて、これで病院あたりの一日の分娩数を承知しているはずがない、と言うも可なり。少子化の問題は、まず、もっと共有されるべきだろう。

温暖化と医師の判断

地球温暖化のせいで北極の氷、13年以降に消失もというニュースが先日あった。海面の上昇の話と一緒にされているために、いかにも氷が溶けて水面が上がるみたいな話になっているのが気に入らない。この記者は、コップの氷が溶けても水面は上がらない、ということを知らないで書いている気配がするし、そうでなくともミスリーディングである。こういう不適切な記事は多く、新聞記者に、理科離れを語る資格はない。

私は温暖化対策に反対ではないが、もともと温暖化に関しては信用できない話が多い。信憑性を増そうとして、逆に怪しくなってしまっている気さえする。実際に過去の気候データを測定している人と話したことがあるが、その人も温暖化は対策すべきだと言っていた。だが、その根拠は実に単純で、ここ百年の二酸化炭素の増え方が尋常ではないということだった。

こんなに急に温室効果ガスが増えたことは、地球始まって以来かもしれない。いつ、何がどうなるかはわからないが、とにかく放置するのは恐ろしい。私はこれが、一番説得力のある説明だと思った。

IPCCの報告のように、「9割なんたらの確率で、二酸化炭素が温暖化の原因になっている」とか言うほうが、怪しげだ。考えの途中を飛ばして、いきなり結論を言う態度が、まず気に入らない(まぁそれを求められてるんだろうけど)。そもそもIPCCという組織自体が、温暖化を考えるために作られたのだから、結論へのバイアスを疑うのが健全だ(集まるのはどうしても、普段から温暖化ネタで食っている研究者だろうし)。だいたい温暖化が二酸化炭素のせいだとしても、今から元に戻せるものかどうか、答えが出るとは思えない。

それならCO2のグラフだけ見せられて、自分で想像する方がずっといい。それ以外の、大昔の気温のデータなんて、信用するのに必要な仮定が山ほどあるだろう。しかもそういうデータからは、氷河期になった理由すら未だに説明されていないのだ。そんなこんなで、平たく言えば「95%正しい」と言われても、お前のその考えが正しい確率は?と思うだけだ。何しろ地球は一個しかないので、確率を検証する方法はない。検証できない確率があってもいいが、他人がやった確率計算のせいで金を失った人が世界中にいる昨今である。

医者が患者を診断するとき、似たような困難が生じる。この治療法は9割の人に有効でした、というのは正しい説明だろうが、それは理解できても、患者が知りたいのは自分に効くかどうかだ。医者の側からすれば、根拠のある、できるだけ多くの患者を救うような治療法が望ましいが、患者の側からすると、たとえ多くの人には効かなくても自分に効く方法がベストである。そして、ベストだったかどうかは、往々にして検証できない。*1

それでも、人間は地球と違って大勢いるから、多くのデータがあり、予想もできる。さらに判断も、最後は本人に任せればよい。温暖化対策は、一人だけやってきた宇宙人を治療するようなものだ。とにかく段違いに難しいということ。マスコミによる説明も、その前提から始まるべきだ。

とりあえず、温暖化について専門的な知識がある人も、「二酸化炭素が増えすぎたとき、何が起こるかわからない」という気持ち悪さを普通に感じていた。IPCCにとって、わかったような報告書を書くよりも、「わからないこと」の気持ち悪さや恐怖感を伝える方が、ずっと正直で、賢いやり方ではなかろうか。

*1:根拠に基づいた医療が本当に役に立つものであるためには、まず病状の分類が正確である必要があるが、そこがすでに保証されていないのが現状だ。ある治療法が有効かどうかという治験データは、病気の分類がいい加減であれば参考にならない。たとえば今、高血圧と言っても、そう診断された人々は実にヘテロジニアスな集団だと思われる(何しろ、とりあえず安静時血圧しか見ないで言ってるのだから)。高血圧に限らず、本当は原因別に対処するべきものが、それが不明なために一緒にされているケースが今後も判明するだろう。

やはり遺伝子組み換え型ネズミ講?

昨日のエントリで、金融危機で儲けた奴がいるに違いないという話を書いたけど、この記事にあるように普通の金融コンサルタントとか経営者が、それに当たるのだろうか。これによると経営者は大泥棒、コンサルは中泥棒である。

マルチとバブルとトウモロコシと女

catsnrats2008-10-26


昔、知り合いの女のアパートに、アムウェイの洗剤が何種類か置いてあるのを見つけた。アムウェイが「商品つきのネズミ講」だという知識はあったので、そう彼女に言ってみたところ、その洗剤はいいものだから先輩に売ってもらったのだという。とりあえず彼女がアムラーではなかったので、ほっとした記憶がある。

このマルチ商法というやつが、今の金融危機そのものと似ているということが、最近よく指摘される。確かにその通りだ。大きく儲ける悪者がいて、最後は末端が損をする。大規模なバブルになると、税金が使われるので、被害者は全国民ということになる。今やこれが、全世界の人間になっている。一人一人は大して損していないけど、勝ち逃げした人間にとっては大きな稼ぎ時である。ネズミ講との大きな違いは、バブルの場合、誰も逮捕されないことだ。だけど本当に、違うのだろうか?

北朝鮮の飢饉に関して、こういう話があった。「食べるためにトウモロコシを栽培したけど、ノウハウがなくて二年続けて植えたりしたものだから地力が落ちて、よけいひどいことになった」。

今の金融危機も、世界経済の地力が落ちるような事態になっているが、作物を植えた人間は、かなり儲かったことだろう。その作物はサブプライムローンとか、クレジット・デフォルト・スワップCDS)という危険な品種である。私には今回の金融危機は、すべてわかっていて行われた遺伝子組み換え型ネズミ講に見える。

アメリカ政府は、景気をよくしようとした。結果的には望み通りになって、今回の場合は自動車とか土地が売れまくり、バブルとなった。バブルの時はとにかくみんなが、買うことに一生懸命になる(だからまた、よく売れる)。勧誘しなくても買うのだから、マルチ商法よりずっと簡単であるし、実際に儲ける人が多い。そこで借金してまで買うわけだが、その借金の敷居を下げることで、さらに状況を悪化させたのがサブプライムローンとかCDSだろう。サブプライムは、金融危機の引き金とまで言われた。普通のバブルより、ずっと人災度が高いと思われる。

調べてみたところCDSというのは、誰かが借金を返せるかどうかに賭けるバクチらしい。これは、どうしても世の中の借金が増える方向に働くだろう。バクチをするためには借金する人が必要だからだ。貸した金が帰ってこなくても損しない仕組み、それは必然的に、全体として金が帰ってこない可能性を増やす。サブプライムローンについては言わずもがなだ。

私にはわからないのだが、バブル経済って、世の中にとって必要なものなのだろうか。ある程度を越えたら、物価が上昇する局面でも最後に破綻する局面でも、迷惑する人は多いわけで、防ぐ努力をすべきではなかろうか。それが故意だったら、尚のことだ。今の状態では、バブルを防ごうというインセンティブはお金持ちの中には存在しない。マルクスの「資本論」には、「お金を貸す」ということに内在する根源的な問題が考察されているはずだ。私は読んだことないけれども。

結局アムラーではなかった彼女は、本人は気付いていないが、今回の金融危機でも単なる被害者の一人である(納税しているという意味で)。その彼女と結婚した私こそ、最末端の負け組かもしれない。

それなんて観測選択効果?

三浦俊彦著「心理パラドクス」に、墜落ネコの死亡率という実話ネタがある。

ネコは、ビルの高層階から落ちても死なないことがある。アメリカで誰かが統計を取ったら、なんと高いところから落ちたネコほど、生存率が高いという結果が出た。「ネコにはそういう能力がある」という説明が、当初はされたのだが、あとで間違いだと判明した。

この誤解が生じた原因は、獣医に連れてこられたネコだけがサンプルだったからだ。高いところから落ちたネコは、死にそうだったら、あきらめて搬送されてこない。いっぽう低いところから落ちたネコは、重傷か死にそうなときだけしか連れてこられない。このように、観測したものに最初から偏りがあって間違った結論へ導くような働きを、観測選択効果という。わりと広い意味で遣われているようだ。

振り込め詐欺がよく報道されるから、よくあんなに騙される人がいるなぁと思う。しかし、詐欺をやってる連中からしたら、電話をかけてもかけても引っかからない日がほとんどではなかろうか。とんでもないレイプ犯とか、ひどい医者とか、ひどい教師とか、ひどい警察官とか、ひどいことを言う2ちゃんねらも、本当は非常に少ないはずだ(警官が銃で自殺、は異様に多い気がするけど)。マスコミでは、その時々の勢いで報道されまくるから、いったい増えているのやら減っているのやら、わからない。ちなみにひどい新聞記者(の書いた記事)は、その限りでない。ひどい場合だけ新聞に載るのではないからだ。

一時期、タミフルによる副作用でマンションから転落する子供が、よく報道された。憶えている人は少ないと思うが、その数ヶ月前には、子供の飛び降り自殺が続いた時期があった。そのころのニュースの中に、「風邪で学校を休んでいた子供が団地から落ちて死亡した」というのがあって(産経のiza!だったが、今は記事が削除されている)、明らかに自殺のつながりで報道されていた。タミフルのことはわからないが、どっちにしても報道する側の予断というものを見た気がした。タミフルという薬についても、その後の調査結果を見れば、明らかに事故の報道が「タミフルを使っていたケース」に偏っていたはずだ。だいたい、子供が高層マンションから落ちたっていうニュース自体が、あのころは過剰に報道されただろう。今の中国メラミンも、そうだ。こっちは是非調べてほしいけども。

もう一つ、タミフルが危険だと言われていたとき、代わりに「リレンザ」という薬を使おうという動きが報道されていた。だけどタミフルは、日本が買い占めていると言われたほど圧倒的によく使われていたので、副作用が見つかる率も遙かに高いはずだ。だからリレンザのほうが安全と言う医者がいたら、うちの子供は診せられない。よく売れるクルマほど問題が見つかりやすく、リコールは多くなるが、それだけ安全になっていく。これも、サンプリング上の差によって誤解が生まれる例だろう。

こうした統計上の落とし穴には十分注意して、おそらく学術論文は書かれている。だけど、論文として雑誌に載るには、複数のレフェリーから内容が妥当であると認められる必要がある。そして、なんとなく結果の予想がつくような研究だと(つまらないけど)、予想に反した結果なら論文が通りにくくて、受け入れやすい結果なら出版もされやすい。

こうして、出版によるバイアスというものがかかる。これも、論文を検索している者にとっては観測選択効果だ。ありきたりな結果の論文のほうが、だから、多くなるのだ。ゆめゆめ論文を一本だけ読んで判断するような間違いをしてはならない。私は、「いろいろやったけど、統計で差が出ませんでした」という研究だけを集めた雑誌を作ったらいいのではないかと、個人的に思う。そういう仕事は、おそらく埋もれがちだろう。要は、論文を調べたら科学的というわけでもないのだ。*1

*1:こうして書き並べてみると、世の中観測選択効果ばっかりではないかと思えてくるが、それは思い過ごしで、ただの観測選択効果だろう。